THE GOOD LIFE IKEDAインタビュー Vol.13

更新日:2026年10月09日

「好き」は、誰かの「やってみたい」になる こどもたちへ手渡す、将棋の楽しさと人生の妙

<プロフィール> 関西本部所属棋士 竹内 雄悟 五段  広島県出身、池田市在住。森信雄七段門下で、棋士番号は292。 2004年に、棋士養成機関「奨励会」に3級で入会。 2013年に四段へ昇段し、プロ入りした。 得意な戦法は振り飛車で、教則本を複数執筆。 自身の将棋教室「竹内雄悟こども将棋教室」や 池田市立図書館での「こども将棋体験会」などで将棋を教えている。

 

 

“遅いスタート”をものともせず、 「好き」を力に棋士への道を切り拓く。  <公式戦の対局で駒を指す竹内さんの写真> 棋士としての公式戦は月2回前後。棋戦の勝ち上がりによっては、数週間のうちに続けて対局することもあれば、間が空くこともあります。写真提供:日本将棋連盟

 

小学3年生の冬に将棋を始めました。祖父が家で指していて興味は持っていたのですが、本格的に始めたきっかけは、たまたま通っていた学習塾の前にあった「広島将棋センター」へ行ったことでしたね。故・村山聖九段をはじめ、多くの棋士を輩出し、全国レベルの人たちが日常的に将棋を指している場所です。僕はあっという間に将棋のとりこになって、中学生になる頃には夕食まで食べさせてもらうほど、毎日のように通っていました。とにかく将棋が好きで好きで。棋譜を覚えて学ぶというよりも、実戦を通じて成長する「超・実戦型タイプ」だと自分では思っています(笑)。

でも、最初から棋士をめざしていたわけではありません。高校生の頃、祖母から「そんなに好きだったら、プロとかめざさないの?」と言われたのがきっかけでした。高校生からプロをめざすのは、将棋のキャリアとしてはかなり遅い部類です。それでも「こんなに好きなことで生きていけるなら、やってみたい」と決断。そこから様々な縁がつながって、現在の師匠・森信雄七段の研究会に参加し、広島から宝塚まで片道数時間をかけて通いました。遠くても、強い人と指せることが何より楽しかった。

高校2年生で奨励会に入り、そこから約9年半かけて2013年に四段へ昇段し、プロ入りしました。決して早い歩みではありませんでしたが、不思議と焦りはありませんでした。周りを見て焦るよりも「今日も将棋を指したい」。その気持ちが、ずっと続いていたんだなと思います。

 

 

棋士としての経験を こどもたちが将棋を楽しむための場所づくりへ。  <教材を手に持つ竹内さんの写真> 日本の伝統文化である将棋を楽しむことはもちろん、論理的思考力、集中力、社交性、礼儀作法などを身につけることができます。  <こどもが駒を指す様子の写真> 将棋は負けた時に「負けました」と言います。対局相手に敬意を持ち、次の対局へ気持ちを切り替えることは、心の成長にもつながります。

 

結婚してこどもたちが生まれ、家を建てようと北摂を中心にいろいろな場所を見ました。その中で池田市を選んだのは、「自然と便利さのバランスがちょうど良いな」と素直に思ったからです。将棋はインドアなものなので、身近に五月山がある恩恵を生かして、よくこどもたちと五月山に登ったり、五月山動物園(現在臨時休業中)に行ったりしています。山登りでこどもの体力がつくのはありがたいですね。阪急電車もよく利用していて、小林一三記念館が家の近くにあるおかげか、息子は阪急電車が大好き。阪急グッズが家にあふれています(笑)。

家を建てる時は「できたら将棋教室もしたい!」と思っていたので、建築家さんには、最初から将棋教室を設ける前提で相談し、家族の空間と教室をゆるやかに分ける動線まで考えて設計しました。できあがった教室「竹内雄悟こども将棋教室」は、スタートしてもうすぐ3年になります。

強い子の棋力をさらに上げることも大切ですが、多くの子に将棋を知ってもらって将棋文化の裾野を広げることも大切です。僕は、最初はゆるくていいと思っています。挨拶などの礼儀は大事ですが、初心者クラスなら対局中に多少しゃべってもいい。まず、「将棋って楽しいな」と思ってほしいですね。そこから少しずつ集中して指すことを覚えていけばいいと思います。

将棋って、盤の上だけの話ではないんですよ。対局時計を使えば、限られた時間の中で指し手を決断する必要がある。一生懸命やって負ければ、もちろん悔しい。でもその気持ちを引きずったままでは次の一局を指せません。「悔しい」をいったん切り替えて、また次へ行く。大人でも難しいことですが、将棋を通して、そういう力も自然と身についていってくれたらと思います。

 

 

一人の「楽しい」が次の誰かへ。 将棋を通して、こどもたちに新しい輪を広げる。  <こども将棋体験会で将棋を指す子どもたちの写真> はじめは駒の動き方を覚えていきます。興味がある子が読める本や、「どうぶつしょうぎ」も準備されています。  <こども将棋体験会でルールを確認し合う子どもたちの写真> 教えあったり、確認しあったり、真剣に勝負したり。こども同士の交流が生まれています。

 

「せっかく住んでいるなら、地域でも何かやりたいな」と思い、自分から池田市立図書館に相談して、こども向けの将棋体験教室を始めました。募集を始めると、すぐに予約が埋まることが多いですね。

面白いのは、将棋体験に来た子が学校で「将棋やってん」と友達に話したことがきっかけで、こども同士でちょっとしたブームになって広がっていくことです。「最近、あの学校で将棋が流行っているらしいですよ」と保護者の方から聞くこともあります。それはとっても嬉しいことですね。僕が「将棋を広めよう」と頑張っているというより、楽しんだ子が次の子を連れてきてくれる感じです。

自宅の教室でも、5歳くらいから中学生までいろいろな子が来ていますが、最初は全然できなかった子が、家や学校でも詰将棋を解くようになる。すると、それを見ていた別の子もやり始める。一人の「好き」が、隣の子に移っていくんです。僕自身もそうでした。こどもの頃、広島将棋センターに行けば誰かがいた。行けば将棋を指せた。それが僕にとってはものすごく大きかった。だから、今度は自分がそういう環境をつくる側になれたらいいと思っています。

図書館はいろいろな人が訪れる場所ですので、部屋の扉を開けて教えていると、さまざまな年代の方がのぞいてくれます。将棋は、世代を超えられます。こどもとおじいちゃんが、一つの盤を挟んで遊べる。特別な道具も、大げさな準備もいらない。ゆくゆくは、図書館でこどもたちが指しているのを見て「ちょっと教えようか」と地域の大人が入ってくる、そんな風景が出てきたら、とても面白いなと思っています。

 

 

長い不調を経て得たまなざしとともに、 棋士としても、地域の担い手としても次の一手へ。

 

僕は奨励会にいた頃からずっと目の不調があり、長年ドライアイの治療をしてきましたが改善せず、眼鏡も合わなくなり、将棋を指すこと自体につらさを覚える時期がありました。原因が分からず、周りにも言いにくい。けれども、仕事や対局には行かねばならない――そんな心身ともに苦しい時間が長く続きました。数年前に妻と母が東京の専門医を探してくれて、ようやく自分の目に合った調整の仕方が分かってきました。治ったわけではありませんが、今は「うまく付き合いながらやっていこう」と思っています。

この辛い経験を通じて、人の見方が変わりました。若い頃は人に対して「もっと頑張ればいいのに」と思うこともありましたが、今は、「人には外から見えない事情があるのだ」「しんどい人の気持ちは、その人にしか分からない」と思えるようになりました。自分が経験して初めて実感したからこそ、今は「それぞれが自分にできることを探しながら進めばいいんだ」と思っています。

僕自身も、棋士としてもう一度しっかり上をめざしたい。そして池田では、もっと将棋を楽しめる場所を増やしたいです。いつかは、こどもも大人もふらっと立ち寄って、「今日は誰かいるかな」と一局指せる将棋道場をつくれたらいいですね。結局、僕は今でも将棋が好きなんです。だから自分もまだ強くなりたいし、自分がもらってきた「将棋って面白い!」という感覚を、今度は池田のこどもたちやこのまちの人たちに渡していけたらと思っています。

 

<information>

●竹内雄悟こども将棋教室、竹内雄悟こども将棋体験会
ブログ:https://ameblo.jp/yugoshogi/
公式インスタグラム:@ikeda_shogi
問い合わせ先:yugoshogi@gmail.com
 

 

“いいひと いい暮らし いけだ”

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