2月14日 ふくまる夢たまごセミナー「閉塾式」

更新日:2021年02月01日

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一人ひとりを大切にするということ

 2月14日(金曜日)午後6時より、市庁舎7階大会議室で「第10回ふくまる夢たまごセミナー」を開催しました。今年度の最終回となる今回、閉塾式を行い、記念講演を大阪教育大学の成山治彦理事にお願いしました。
 閉塾式の最初に、村田教育長より「今年の第3期の卒塾生を含めると、4月には教諭として池田市の学校に勤務する卒塾生は計15人になる。ふくまる教志塾の出身であるという自覚を持って取り組んでほしい。」という激励の言葉がありました。続いて、成山先生の記念講演に移りました。講演テーマは「一人ひとりを大切にするということ」です。「ふくまる教志塾」を巣立って、いよいよ4月から教壇に立つ受講生には、この上ない餞の言葉となりました。

(画像)閉塾式1
(画像)閉塾式2

講演の概要をお知らせします。

講演の概要
記念講演「一人ひとりを大切にするということ」

 ソチオリンピックの高梨選手。世界選手権で13勝していても緊張する。17歳の競技後のコメントがすばらしい。ソチのオリンピックで日本チームを支えているのは10代の選手であり、その人たちを育てたのは日本の教育である。若い人が育っている。世の中では教師バッシングが厳しい。みなさんの姿を見ると、日本の教育も捨てたものではない。雪のバレンタインの日にもかかわらず、こんなに参加してくれている。
 雪が降ると話したくなるのは、大阪が産んだ近代詩の詩人、三好達治の「雪」という2行の詩である。
  「太郎を眠らせ 太郎の屋根に雪ふりつむ
   次郎を眠らせ 次郎の屋根に雪ふりつむ」
 最初に勤めた女子高で、この詩を取り上げた。この詩からイマジネーションを働かせて、小さな子どもに聞かせる童話を創ってみようという課題を課した。この2行詩だけで、5〜6時間授業した。太郎は、次郎は、どんな子か。二人は兄弟かな。どんな雪が降っているのかな。新潟県の長岡の人は、雪を自由を奪う壁のように感じる。ところが、大阪では、雪が降ると今日のように子ども達がはしゃぎまわる。「雪」の詩に出会った高校生の反応も、人によって全く違う。その中で、印象に残っている子が一人いる。その子は、家庭環境の厳しい生徒だった。その子の童話は、やさしさに溢れるものだった。
  「太郎は 一筋 頬に涙を流して 眠りについた
   やさしい雪の音が聞こえてくる
   雪が 降り積もっている          」
 すごい子どもたちの想像力、可能性を教えてもらった。表面だけ見ていると、子どもはいろんな表情をぶつけてくる。でも、心の中はどうか、なかなか掴めない。現場に出ると、随分、困る。目の前の子どもがなかなか授業にくらいついてくれない。なんでこの問題がわかれへんのか。どうしたらやる気が出てくるのか。授業をしながら、随分、悩む。自分の教え方が悪いのか。自分は好かれていないんではないか。教師失格違うかな。いろんなことを考える。特に、反抗的な子どもが出てきたときや、教師に対して暴力的になったり、他の子に暴力をふるったり、暴言をはいたりすると、もうやめたいと思うことも、しばしば出てくる。この悩みと向き合いながら、教員は教師になっていくのかも知れない。語れる子どもの数だけ、教師はえらくなる。教員になって、初めから師と崇められるような教員はいない。子どもと向き合い、子どものことが語れるようになって、教師になっていく。その前に、目の前の課題を乗り越えていかなければならない。・・・教室の中だけで見ていても、子どもはわからない。勿論、教師は教室の授業で勝負するんだけれども、そこに座っている子どもたちは、生活背景をもって座っている。あるいは、教室内の友達関係をもって座っている。それが見えない。授業をやっているときの反応は見える。子ども達がかかえている、教師から見えない所を教師は想像しながら、見ようと努力して臨んでいる。スライド資料に、「子どもの生活背景から理解する」ことについて、4つのことを取り上げている。

  1. 子どもにはいくつもの顔がある
  2. 悩みの深さ
  3. 孤立の背景
  4. 絶望の中の優しさ

 「絶望の中の優しさ」について、一人、忘れられない子がいる。いつも授業に遅刻して来る女の子。勉強はあまりできなくて、生活習慣もあまりきっちりしていない。でも、表情は優しくて、おっとりしていて、とげとげした所がなくて、クラスで交流していた障がい者の女の子に、いつも手を差伸べている。同じ人間としてつきあってくれている。ある時、その子の家庭訪問をした。市営住宅の部屋の中に入ると、襖が破れ、出してくれたサブトンも破れたままになっている。炊事場を見ると、うず高く食器が積み上げられている。彼女から話を聞いてみると、お母さんがなくなって、お父さんが体を壊されて仕事もダメになり、生活保護を受けておられる。兄と弟は両方とも暴走族で、兄は少年院に入っている。父親は、毎日、酒を飲んでぶらぶらしている。この環境の中で、彼女は、学校に来たときは、ゆったりした表情でとげとげした所がなくて、障がいのある子と人間としてつきあいをしている。本当に優しい、天使のような人でした。夜は居酒屋でアルバイトをして(本当はアルバイト禁止)、家の収入の足しにしている。・・・嬉しいことに、この子は3年間できっちり卒業した(当時、その高校は1/3が中途退学)。子どもは、教室以外の顔をたくさんもっていることを、その時、気付かされた。
 もう1つ別のレジメを用意している。松原市の布忍小の実践が、今年の1月1日から8回にわたって朝日新聞に掲載された。私はこの学校に4〜5年かかわっている。その中で「にぶんのいち成人式」に取り組み、5年生で自分史学習をやって、保護者から自分の生い立ちを聞き、それを表や作文にまとめて、それを基に仲間と語り合って、気持ちを重ね合わせる。その時、子どもの学力が大事になってくる。親から聞き取りをする時に、どのように聞くか、聞く力がためされる。それをまとめる、まとめる力がためされてくる。それから、仲間と語り合う、伝え合う、この時も、自分の思いを自分の言葉で伝える力が必要になってくるし、相手の言葉を聞く力が必要になる。語り合うという相互作用(コミュニケーション)を成り立たせる力も必要である。一番難しいのは、気持ちを重ね合わせる、重ね合わせて人の話を聞く。これは我々大人でも難しい。東日本大震災の後、神奈川の先生が、…行っていない、知らない場所での出来事について、文献とかニュースを通じて、自分がいる場所で何ができるかを問う、自分を重ね合わせて、いろんなニュースを読み取っていく、聞き取っていく、という営みが大事だとおっしゃっている。私も、このことが大事だと思っている。・・・配布したレジメではタカシくんがメインの子どもである。タカシくんの家では両親が喧嘩して、それを目の当たりにして怖かった。お母さんが出ていかないかとおびえている。それで、お父さんに「離婚せえへんな」と聞いた。お父さんは「うん」と言った。でも、その翌日、学童から帰ってきたら、お母さんはもういなかった。それで、随分、泣き暮らした。そのことを学校で話をすると、リキという友達が「こんな悲しいことを乗り越えて学校に来てるんだなあ」ということに気付いた。その言葉を聞いて、タカシくんは「自分の話を真剣に聞いてくれた、わかってくれた」、そのことがうれしかった。友達と心を重ね合わせることができた。つながることができた。・・・子どもと親が、子どもどうしがお互いに気持ちを重ね合わせてつながっていくという場面が学校では出てくる。それを教師が気付けるかどうか。見えない子どもの心を見えるかどうか。それが、教員が教師になっていく、一番大きな力だと思う。
 サンテグチュベリの詩を送ってもらった。その中に、「大切なものは目に見えないんだ」と書いてある。目に見えないものを見る力、目に見えないものの中に真実を見る力が子ども達に大事だし、第一に、私たち教師に大事である。・・・目に見えるものだけを追っかけていると、それは真実ではない、現象に過ぎない。現象は現実の1つの側面であって、真実ではない。目に見えるものを通して、目に見えないもの、その中に真実があり、その真実を読み取る力、感じ取る力が、私たちの中に備わってきて、初めて、私たちと東日本の被災地の人と、帰りたくても帰れない福島の人と心を通わせることができるのかもわからない。このことは、私たちの日常の教育現場の生活の中で、教師と子どもとの心を重ねることで、子どもと教師のつながりが生まれてくる。
 スライドにある「授業成立の前提条件」について、子どもと教員の信頼関係があって、初めて授業が成り立つ。そのためには、子どもの思いを受け止めるかどうか。子どもの中に潜んでいる子どもの真実を見てとれるかどうか。これには、勿論、努力が必要である。子どもの心の奥底に潜んでいる真実を読み取れるかどうかということが大事なポイントだと思う。「卒業生の語る先生の思い出」について、私の思い出は、ある時、家まで送ってくれた担任の先生が、「おかあさん遅いやろけど、頑張りや」と言って帰っていかれた姿に、「私の寂しい気持ちをわかってくれていたんだ」と感じ、そんなことがわかる先生になりたいと思った。スライドにある女の子の気持ちを察して手を差伸べてくれた先生、これができる先生がすばらしい。この先生のクラスで先生が音読すると、クラス全体が声を合わせて音読できる。その影に、この先生の努力があった。・・・資料の中に「仲の良かった友だちが障がい者問題を理解してくれないと、担任に相談すると、『伝えたいのなら、まずお前がその子のことを好きにならないとあかん』と言われた。好きになり、理解する、その子はどういう家庭環境にあって、なぜそういうことを言うのか。それを知ろうとせずに相手を言いくるめるようにしても伝わらない。」というのがある。このことは、私たちが、一番、受け止めなければならないことである。どうしても、教壇に立って言ったら聞いて当たり前と思っていると、肩透かしをくらう。自分の言って聞かせている言葉が届いているかどうかは、受け止める側の子どもがどんな状態にあるのかによって違う。そのことについて、私たち教師が、目に見えない部分まで想像力を働かせて、思いを馳せて、心をその子に遣って、相手に届いているかどうか確かめる。・・・このようなことのできる教師でありたいと思う。
 以上の話を、期待を込めてみなさんに贈りたいと思う。

 

 その後、記念写真を撮影した後、受講者を代表して塾生の谷本さんと花巻さんがお礼のあいさつをしました。最後に,山田・丹松の両セミナーアドバイザーが、「ふくまる教志塾」の振り返りと感想を述べて、閉塾式を終えました。
 受講生に、自らの教師経験を踏まえて心温まる講演をしていただいた成山先生に心よりお礼申し上げます。

(画像)閉塾式3

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